『幼児から青少年までのレジリエンス向上を目指したプログラムと人材育成体制づくり』セミナー | キャビンアテンダント(客室乗務員/CA)がおすすめする情報メディア - CA Media

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『幼児から青少年までのレジリエンス向上を目指したプログラムと人材育成体制づくり』セミナー

CA Media編集部

先日発表された文部科学省の調査によると、全国の小中学校で2021年度に不登校だった児童生徒は、前年度から2割以上増え244,940人で過去最多となりました。20万人を超えたのは初めてのこと。その要因となっているいじめや子どもたちの心の悩みなど、子育てでお悩みを抱えているCAママに同志社大学で臨床児童心理学を研究する石川信一教授のセミナーレポートをお届けします。

小中学生の不登校 昨年度24万人で過去最多。コロナ禍が影響か


文部科学省は全国の小中学校と高校、それに特別支援学校を対象に不登校やいじめ、自殺などの状況を毎年調査していて、27日、昨年度の調査結果を発表しました。


その結果、小中学生の不登校は24万人余りと、前の年度から49,000人近く、25%増えて過去最多を更新しました。


調査した文部科学省は「コロナ禍による環境変化が子どもに大きな影響を及ぼしたことがうかがえる」としたニュース。コロナ禍で子供たちの心の悩みに社会が向き合えていないことに非常にショックを受けました。



小学校低学年のいじめ件数が圧倒的多数


そのようなニュースが流れる中、国立研究開発法人科学技術振興機構 社会技術研究開発センターが研究開発を推進する『幼児から青少年までのレジリエンス※1向上を目指したプログラムと人材育成体制づくり』という研究プロジェクトのオンラインセミナーが開催されました。


セミナーでは、臨床児童心理学を研究している同志社大学 心理学部の石川信一教授が取り組んでいる教育プログラムが紹介されました。このプログラムは、京都を中心に全国の小中学校で授業の一環として採用されているというものです。

※1:もともとは「弾性」すなわちしなやかさを表す言葉。困難な状況においても、それを切り抜け上手く適応していく力を指しています。


10月に、文部科学省が発表したデータ(202210月発表)では、小中高及び特別支援学校におけるいじめの認知件数は615,351件(前年度517,163件)であり、前年度と比較して98,188件増加しているとのこと。また小学校におけるいじめが圧倒的に多く、中でも低学年における発生率が高いといいます。


文部科学省「令和3年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」より



心の問題で経済損失2兆円という試算も

子供たちがいじめから生じる心の傷を負ってしまったことに対し、現代社会が早急に解決すべき課題として、メンタルヘルスの増進、つまり「こころの健康づくり」があります。これまでに、成人期の心理的問題の半数は主に児童期に始まっていることが明らかになっています。


さらに、慶應大学の調査では,心理的問題が生じると、それによって当人だけでなく周りのサポートも必要となり、年間約2兆円の社会経済的損失をもたらすことも明らかにされています(佐渡、2014)。心のケアは、“問題が浮かび上がってから”の対応ではなく、“問題が生じる前”の対応、つまり小学校での早期予防的観点が必要不可欠であるといえます。


そのような中、教師が学級で実施可能な小学生対象のメンタルヘルス予防教育プログラムが推進されています。現代社会の抱える問題を切り抜ける適切な知識と技術を身につけ、心理的レジリエンスを備えた子どもの育成を行い、こころの危機を自力で乗り越えられると知ってもらうことを目指すプログラムです。



「こころあっぷタイム」というメンタルヘルス予防教育プログラム

これはメンタルヘルス予防教育プログラム「こころあっぷタイム」というもの。プログラムの研究開発に携わる石川教授は、社会性の増進や心理学で身につけるのスキルの練習を専門家ではなく学校教育の中で担うことができないかと考え、教員でも理解できる具体的なプログラムとして普及を推進しています。


このプラグラムは、子どもたちの関心を引く漫画を活用し、それぞれ性格が異なる「赤丸くん」「青助くん」「キミちゃん」という3人の登場人物のこころの問題について、3人を導いていく「白じい」という発明家がつくる発明品を使い、一緒に解決方法を学んでいくというストーリー仕立てのものです。


発明品には、自分の感情の種類や強さを理解できる「きもちセンサー」や、飲むと暖かい言葉がかけられる「あったかスープ」など、毎回新しいアイテムが登場。対処法やスキルをメタファー※2で説明し、覚えやすく楽しく学べる工夫をしています。中には、子供たちがイメージしやすいように、このアイテムを手作りする先生もいるほどです。

※2:比喩を使って物事をわかりやすく伝える手法のこと。ここでは,不思議な発明品というものを通じて,学ぶべきスキルを直感的に理解できるように試みています。


©2017 Shin-ichi Ishikawa & Yoko Kamio


具体的な展開は、「いらいら」「不安」「落ち込み」という代表的な3つのこころの問題について、3人の登場人物を通じて理解していきます。こうしたキャラクターを通じ、他人のことを理解することで、自分自身の理解も深められることを狙いとしています。



京都府を中心に、日本全国73校でプログラムを導入

この小学生向けのメンタルヘルス予防教育プログラムは、すでに全国73校での導入が進んでいるほか、学校現場だけでなく市町村レベルでも、メンタルヘルスやプログラムに興味を持つ人たちとの連携を開始しています。


一方、導入校についても国語や道徳、特別活動といった教科の中で+αとしての扱いになっており、必修ではないため、必要性を感じていても取り入れる時間が無いという現場の課題も浮き彫りになっています。


小学生向けのメンタルヘルス予防教育プログラムでは、プログラム実施後に子ども達の自己効力感が向上することが実証されているため、今後は幼稚園から中学校・高等学校までの幅広い年齢層に向けた新たな教育プログラムを開発することが目標とされています。

※3:ある結果を生み出すために必要な行動をどの程度うまくできるかという確信のこと。




まとめ~現状の課題と今後の展望は?

石川教授によると京都府では、教育現場において教員の積極的な介入により、全国平均よりも多くのいじめを認知することができています。加えて、京都府はスクールカウンセラーなど、教育現場でのメンタルヘルスサービスが全国的にも早い段階から導入されており、いじめ認知後の対応にも注力しています。


しかし、いじめの根本的な解決には、子どもの自己効力感を高めることによる予防的対策が不可欠であり、既存のメンタルヘルスサービスが充実した先進地域であるが故に、一歩進んだ、子どもを対象とした心のレジリエンスを身につけるためのメンタルヘルス予防プログラムの定着が求められています。


小学生向けのメンタルヘルス予防教育プログラムでは、実施後に子供達の自己効力感が向上することが実証されています。本プロジェクトでは、今後この教育プログラムを基盤に、幼稚園から中学校・高等学校までの幅広い年齢層に向けた新たな教育プログラムを開発していくそうです。


また、タブレット端末が学習ツールとして有効な子どもに向けた、電子版プログラムの開発も並行して行っています。プログラムの定着に向けては、実施する学校や担任教員を支えるための研修による人材育成体制や、個別対応が必要な子どもについての相談ホットラインを構築するなど、普及に向けてのインフラ整備も行っていくそう。集団指導と個別指導の両観点から「誰一人取り残さない」メンタルヘルス予防サービスの提供を目指すそうです。


いじめがあってから解決するのではなく、自己効力感を養い、あくまで予防していくことを目指すメンタルヘルス予防教育プログラム「こころあっぷタイム」。現在、京都を中心に東京、大阪など11都府県で実施されていますが、今後全国的に普及していくことを願ってやみません。



石川 信一教授プロフィール

同志社大学心理学部 教授

博士(臨床心理学)、臨床心理士 専門行動療法士、公認心理師。

早稲田大学人間科学研究科修士課程修了、北海道医療大学心理科学研究科博士後期課程中退、宮崎大学教育文化学部専任講師、フルブライト研究員、同志社大学心理学部准教授、マッコリー大学客員教授等を経て、2018年より現職。

専門は臨床心理学で、とくに臨床児童心理学分野として、不安症の子どもに対する認知行動療法、学校で実施する予防的介入に関する研究を進めている。近著として、『臨床児童心理学』(ミネルヴァ書房)、『イラストでわかる子どもの認知行動療法』(合同出版)など。


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