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気候変動と健康被害の関係性を探るセミナーが開催 ランセット最新報告が警鐘を鳴らす健康を守るために

CA Media編集部

今年、世界は過去10万年で最も⾼い気温を観測。⽇本でも各地で最⾼気温 30℃以上の真夏⽇が過去最⻑と35℃以上の猛暑⽇も過去最多を更新しました。世界的医学誌『ランセット』が主宰する気候変動と健康に関する国際共同研究事業であるランセット・カウントダウンでは、この問題について警鐘を鳴らしています。今回は、第⼀線で活躍する専⾨家が最新の知⾒を共有するシンポジウムが開催されました。

ランセット・カウントダウンが警鐘を鳴らす気候変動と健康に関する問題とは


気候変動の影響が世界各地で⾒られる中、その範囲は異常気象にとどまらず、⼈々の健康と命の問題にまで拡⼤しています。 今年、世界は過去10万年で最も⾼い気温を観測し、⽇本でも各地で最⾼気温 30℃以上の真夏⽇が過去最⻑を記録、35℃以上の猛暑⽇も過去最多を更新しました。 世界的医学誌『ランセット』が主宰する気候変動と健康に関する国際共同研究事業であるランセット・カウントダウンは「⼗分な気候変動対策が取られない場合、過去50年の公衆衛⽣の進歩を後戻りさせることになる」と警鐘を鳴らしています。ランセット・カウントダウンとは、有⼒医学誌ランセットが主宰し、世界50以上の学術機関と世界保健機関(WHO)、世界気象機関 (WMO)、欧州疾病予防管理センター(ECDC)をはじめとする国際機関に所属する 114 名の科学者・医療従事者の専⾨知識を結集する国際研究事業です。ランセット・カウントダウンでは、気候の変化に伴って健康上のあらゆる側⾯が悪化し、気候変動対策がこれ以上遅れれば、健康への脅威がより深刻なものになる可能性があると結論づけ、適応の限界を訴えています。気候変動は既にある他の危機による影響を急速に悪化させており、熱中症、感染症の拡⼤、⾷料不⾜からの栄養不良、⼤気汚染といった様々なリスクを生み出します。


これを踏まえ、世界および⽇本で確認されている気候変動による健康被害や医療現場の状況について、第⼀線で活躍する専⾨家が最新の知⾒を共有する場を設け、ランセット・カウントダウンの協⼒の下、東京医科⻭科⼤学および⻑崎⼤学が共同主催したシンポジウムが東京・日本橋で開催されました。


このイベントは、11 ⽉ 30 ⽇開催の国連気候変動枠組条約の第28回締約国会議(COP28)に先駆けて先日発表された「ランセット・カウントダウン健康と気候変動に関する2023年報告書」に付随するもので、ランセット・カウントダウンとしては初めての⽇本イベントとなります。



「暑熱と健康」研究の第一人者シドニー大学オリー・ジェイ教授と医師・医学者である東京大学大学院橋爪真弘教授による基調講演


第⼀部の基調講演では、アメリカとヨーロッパで20年以上にわたり「暑熱と健康」に関する研究をしているオリー・ジェイ シドニー⼤学教授より、「ランセット・カウントダウン 健康と気候変動に関する 2023 年報告書」が⽰す、 気候変動が健康に与える影響の最新報告について、が、また、東京⼤学⼤学院 医学系研究科 国際保健政策学の橋⽖真弘教授より、「日本における気候変動と健康」についての講演が行われました。


ランセット・カウントダウンの研究メンバーでもあるオリー教授は、オンラインで参加し、既に多くの人が気候変動により健康への被害が出ていると訴えました。気候変動による脅威として、干ばつや食糧不足、熱波が与える影響や感染症の拡大など既に私たちの周りで起きている健康被害について説明。そして、これらを回避するために健康で豊かな未来を実現する11の優先事項を提唱。


その中で最も急務に取り組まなくてはならないのは、

①化石燃料の段階的廃止を加速させ、 健康と共通する便益のあるエネルギー部門と食料システムにおける対策を優先する

②健康を増進するような気候変動対策を実施することで、保健セクターのリーダーシップを促進する

③健康のための気候変動への適応を加速する

④健康で持続可能な未来を支えるために、金融システムを変革する

⑤健康と気候変動に関する知識ベースと関与を拡大し続けるために、リソースと支援を増やす

という5つの項目をまずは率先して行うべきと話していました。



シドニー大学・オリー教授


続いて、「わが国における気候変動と健康」と題してお話しされた東京大学大学院の橋爪教授は、気候変動による健康被害として、特に熱中症患者が急増、2018年から2022年にかけて平均7万人が緊急搬送されている実態や、最悪の場合死亡に至ってしまう方が千人を超える年もあり、これは大雨や地震などの自然災害の死亡者の5.5倍(2017~2021年合計/令和4年防災⽩書および⼈⼝動態統計より)に及ぶなど、気候変動による熱中症や熱波を災害として捉えるという認識が大切だと訴えました。


また、温暖化で生息域が増大しているヒトスジシマカが媒介となって起こるデング熱患者の増加や熱ストレスによる死亡は今世紀半ばに2.4倍になると予測(気候変動適応情報プラットフォーム「全国・都道府県情報」)されることや、メンタルヘルスへの影響も大きな課題として提示されました。



東京大学大学院・橋爪教授



 気候変動が子どもに及ぼす健康被害とは?


第⼆部では、「ランセット最新報告が警鐘を鳴らす健康を守るためのコミットメントとは」をテーマに、 気候変動が⼦どもの健康に及ぼす影響について議論しました。パネリストには、東京医科歯科大学国際健康推進医学分野の藤原武男教授とみどりのドクターズ・佐々木隆史代表理事がオンラインで参加、東京大学大気海洋研究所・今田由紀子准教授、長崎大学プラネタリーヘルス学環長・渡辺知保教授、さきほどの橋爪教授とモデレーターに日本医療政策機構・菅原丈二副事務局長が加わり活発な議論が行われました。



モデレーター日本医療政策機構・菅原副事務局長



オンライン参加したみどりのドクターズ佐々木先生から気候変動が健康に及ぼす影響に関する啓発活動を⾏う「医師たちの気候変動啓発プロジェクト」が調査(全国の20-40代男⼥合計 1,200 ⼈)した2023 年の“最も暑い夏”をふまえた気候変動と健康被害の意識調査の結果が発表されました。



みどりのドクターズ・佐々木代表理事


この調査によると、7割以上が「地球沸騰化時代」の到来を実感したと回答。






また、⼦どものいる男⼥の6割が今年の暑さで「⼦どもの健康を損なう」と感じたことも明らかとなりました。






その一方で、気候変動が「⾮常に影響している」こととして「健康」を挙げている人は3割強に留まり、気候変動が健康に影響していることについての認知・理解が低いという結果も浮き彫りになりました。






このアンケート結果を受けて、東京大学大気海洋研究所今田准教授は、「自身の体験として今夏の猛暑から子どもを守るために昼間は外出を避け家の中で過ごさせるなど、行動制限による発育のチャンスを奪うなどの影響があった」と話しました。



東京大学大気海洋研究所・今田准教授



橋爪教授は、気候変動が「⾮常に影響している」こととして「健康」を挙げた人が3割強に留まった結果に対し、気候変動が健康に及ぼす影響に実感がない理由として「可視化できない、感知できない」ことを挙げ、「今後引き起こされるであろう深刻な影響を想像することが大切」と話しました。


長崎大学渡辺教授は、「百年、千年後の話ではなく既に気候変動による健康の影響は明らかに表れており、決して遠い未来のことではない」と危機感を募らせていました。



長崎大学プラネタリーヘルス学環長・渡辺教授



気候変動による健康被害が未来に与える影響まで捉えるには想像力が大切



今田准教授は、気候変動による健康被害を捉えるには想像力が大切であると説いています。「想像力にもいろいろあって、目に前で起きているリスクについては気づきやすく対策も立てやすいが、この先どうなっていくのだろうか、という未来に起こりえることまで考える想像力が大切」と語っていました。


渡辺教授はさらに「暑さによる影響は、仕事効率の低下のほかにも農業や漁業、生物の生態系の変化にもつながっており、それらが自分たちの健康にどのように影響を及ぼすかというところまでの想像力が大事」と補足。


また、東京医科歯科大学藤原教授は「欧米では気候変動による健康被害への関心が高く、その世論によって政策も動いている。一方日本ではまだ関心が低い。日本人はなぜ気候変動に関心がないのか、なぜ行動を起こさないのか1万人を対象に調査をしたところ、行動を起こさない理由には、それぞれの想いや事情があることがわかった。このことから、CO2削減のための対策について、丁寧にセグメンテーションをした対策を提案しなければならないと考えている」とも。



東京医科歯科大学・藤原教授



また、渡辺教授は、気候変動による健康被害を少なくしていくポイントとして「我慢や抑制ではなく明るい未来を想像することが大事」と語り、医師側としても「エビデンスを出すのはもちろん、それ以外のことを提案しないと」と説き、ゴールまでのイメージする「ストーリーが大事」と語っていました。



気候変動対策は⼦どもの安全保障


モデレーターの日本医療政策機構・菅原副事務局長は、欧米で気候変動と健康被害に関する意識の高さは、医療・科学分野だけでなく、他の分野との連携がうまくいっているからではないかと語り、気候変動からの健康被害を子供たちから守るには、様々な分野が連携すること、そしてこのような機会を通じ、丁寧にこの問題を説明し、大人たちはその先の未来を予測する想像力を持つことをまとめとして提言しました。


⼦どもたちが安心して外で遊ぶことできる社会の実現に向けて、気候変動による健康被害をいかに低減させていくのか・・・私たち大人が子供たちに安全な持続可能な社会を構築していかなくてはなりません。


気候変動がもたらす健康被害について、今起きていることから想像力を使って将来どのような影響があるかを皆さんも考えてみてはいかがでしょう。


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